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イノシシだとか猿だとか熊というように。僕はそう思いながらも、そんなのどうでもいいことじゃないか、ただの言葉の違いだろうとあまり気にしないことにした。
しばらく会話に沈黙があって、僕がその間に耐えられずに何か話そうとすると、山田さんの方から口を開いた。
「ただ、この辺は夜になると、獣が出て危ないから、あまり夜出歩かんほうがええですよ。」
心なしか山田さんの声のトーンが少し低くなったような気がする。危ない獣、熊だろうか。
だとしたら怖いな。
「雨戸もきっちり閉めて寝たほうがええ。獣がガラスを割って入り込むやもしれませんけえな。」
え?そこまでしなければならない獣なの?僕はますます熊を想像した。しかし、何故山田さんは獣としか言わないのだろうか。
僕はその日は引越しの疲れもあり、農業指導は明日から教わりに行くことにした。その日の夜、僕は山田さんの言葉を思い出していた。雨戸を閉めるなんて、ちょっと大げさじゃないか?それに、今気付いたのだが、夜になると満点の星がまるでプラネタリウムのようではないか。こんな壮大なプラネタリウムを独り占めできるような環境で雨戸をぴったり閉めるなど、勿体無い。
今日一日くらいは大丈夫だろう。僕は存分にこの星空を堪能しながら夕食を摂った。縁側一面のガラス戸はまるで宝石をちりばめたかのように綺麗。
窓の外を眺めていると、家の前の小路を誰かが歩いていた。山田さんが夜は出歩かないほうがいいと言っていたのに、大丈夫なのだろうか。僕は心配になった。でも、案外、山田さんが心配性なだけなのかもしれないな。実はそんなに心配するほどでもないのではないか。僕がそんなことをぼんやりと考えていると、外から不思議な声とも音とも知れないものが聞こえてきた。
かつん、かつん。定期的に地面を固いもので叩くような音。
「うぉー、おー、おー、おー・・・・・」
何か獣か人かわからないような咆哮。どこかから隙間風でも入っているのだろうか。いや、そんな音ではない、聞いたことも無いような音だ。僕は音のする方向を探した。暗さに目が慣れてくると、どうやらあの小路を歩いている人のほうから聞こえるようだ。
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