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◇
「倉田君?」
バイト帰りに声を掛けられた。振り返ると、緩和ケアチームの医師、久住先生が立っていた。
長身で整った顔を持つ、三十代のまだ若い医師だ。柔和で甘い顔立ちは女性看護師からたびたび熱い視線を受けていた。しかしこの人が噂の医師……数年前に同性婚をした人だということを、僕は柊平から聞いていた。
「今日は柏木さんのところ行かないの?」
「明日の退院の時に付き添う予定なんで……今日は帰ります」
「そうなんだ。もし時間があるなら、少し話さない?」
「えっと……、先生は時間あるんですか?」
「大丈夫。何かあればすぐに電話がくるしね」
そう言って爽やかに笑った久住先生は、首から下げているPHSをちらりと見せた。胸ポケットから出す時に、そこにある顔写真付きの名札も目に入る。“久住和人”と書かれた文字の横には、今よりも若い先生が写っていた。
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