第四章

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 救急外来の入り口には診療を待つ人のためのソファーがある。土日、夜間はここが入り口になるから混んでいるのだが、夕方のこの時間は、まだ人が少ない。そこに先に座っているように促された。少しして、久住先生が缶ジュースを二本持ってきて、一つを僕に手渡した。 「あ、何にも聞かずに買ってきちゃったけど、コーラで大丈夫だった?」 「はい」 「大切な話をする時、俺の大事な人はいつもコーラを買ってくるものだから、癖みたいで」  大事な人、という言葉にドキリとする。愛しそうに、甘い瞳をさらに緩めたから、おそらくパートナーの男性のことだろう。 「俺と倉田先生は科が違ったんだけど、研修医の時にお世話になったんだ。いろいろ相談に乗っていただいたしね」 「そうですか……」 「だからっていうのは変だけど、もし何か俺が話を聞けることがあるのなら、聞けないかなと思ったんだ」  遠回しな言い方だが、なんとなく何が言いたいのかわかる。
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