第四章

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「でも、コウさんは違ったんですね」 「うん。俺の両親から俺を奪うのが嫌なんだって、泣かれた。それでも俺と家族になりたいと思ってしまうのが、辛いんだって。そういうの、言われるまで気がつかなかったんだ。コウは俺と同じ気持ちだろうって、思っていたから。でもコウの気持ちを聞いて、俺も覚悟を決めた」  想い合う気持ちが、なんて強いのだろう。会ったことのない“コウ”さんと、久住先生を眩しく感じる。僕は今まで、同性愛者であることを隠していくことしか考えていなかったから。 「あ、病棟からコールだ。長く引き止めてごめんね」  久住先生のPHSが着信を示す。久住先生は僕に謝ってから立ち上がって少し離れて電話に出た。聞こえてきた声から、すぐに病棟に向かうようだったから、僕も立ち上がった。通話を終えたのを見て声をかける。 「ありがとうございました。また、よろしくお願いします。おじさんと、話してみます」 「うん。倉田君がどうしたいのかも、よく考えて。柏木さんだけじゃない。君も、自分の気持ちに向き合って。一緒にいられるだけでいいのか。その先を望むのか」
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