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「だから、ここに引っ越してきたんですか?」
「うん。約束したんだ。大人になったらまたここで見ようなって。実現しなかったけどな、俺の所為で」
この、古くて日当たりも悪いマンション。ここを選んだわけは、それだったのか。父と再会できていたら、約束を果たそうとしていたのだろう。
「一緒に見るのが父さんじゃなくて僕で、」
「凪でよかった。凪と見れて嬉しい」
あまりにも嬉しそうに笑うものだから、僕は胸が痛くなってうつむく。
「凪がそんなに喜ぶとは思わなかった。凪ちゃん冷めてるとこあるからさあ」
「いや、それは……花火、あんまり近くで見たことなかったから」
「そんなことねえけどなあ。小学生の時かな? 凪は見たことあるよ。旅行先かな。映像がぼやけてたから寝ぼけてたのかもな」
え、と顔を上げておじさんを見た。
「この前見えたんだ」
「でも、小学生の時って……そんなに昔のこと、今まで見えなかったじゃないですか」
「そうなんだよな。この前、だいぶ長くキスさせてもらってたとはいえ、十年以上も前のこと遡れたのなんか初めてだ。俺がもうすぐ死ぬってのと関係あんのかねえ」
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