第四章

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「僕に優しくしてくれたのは、父さんへの罪悪感から?」 「……そうだよ」 「僕と一緒にいるのは、僕の目を通して父さんを見れるから?」 「……ああ」  おじさんの手をとる。僕より大きい、骨張った手を。 「それでいいです。それでも、僕は嬉しかった。僕の痛みをわかってくれたこと、僕の過去を見ながらも、僕がそれをどう思ったのかを知ろうとしてくれたこと、綺麗な言葉をくれたこと、全部」  無理に、ではない。自然と笑顔になっていた。 「全部、嬉しくて、僕を救ってくれた。あなたは、優しい。過去に間違いを犯していたとしても、それを背負いながらもあなたは、こんなにも人に優しくできる。きっとこうやって、僕以外の人もたくさん救ってきたんでしょうね」  おじさんも、僕の手を握り込んだ。ぎゅっと握る手は温かく、震えていた。  微かに聞こえた声は花火の打ち上がる音に消され、なんと言われたのかわからなかった。それでも流された涙の意味が、悲しいものではないといい。  本当は、もっと言葉を重ねたかった。あなたのパートナーになりたいのだと。好きになってほしいのだと。  本当の望みは、心にしまおう。  見返りを求めず、ただおじさんへの想いを口にする、綺麗なものになりたい。  ねえ、なんて言ったの? そう聞き返したい気持ちを抑え、僕はおじさんを抱きしめる。  眩い光が散る中で。  第四章 終
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