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「……あなたがいなくなることが、怖いです」
おじさんの唇を感じながら、僕は静かに話す。
「毎日、帰る時には明日は何事もなく会えるかって、不安です」
部屋のドアが閉まる瞬間、このまま二度と会えなくなるかもしれないと、いつも恐怖を感じる。
「俺は凪に、そういう気持ちになってほしくなかった……笑顔で、別れたい」
唇を離し、おじさんは掠れた声を出す。
「自分勝手だけど、前にも言ったように、凪に悲しみを残したくないんだ」
自分の想いを否定された時より、涙が浮かんでくる。今別れたら、悲しみを残さないとでも思っているのか、この人は。僕だって、悲しみなんて感じたくない。だけど。
「怖いけど、それだから離れたいなんて、思わないんです。怖いから、辛いからと言って離れられない」
口元には必死で笑顔を浮かべる。
「辛さで抑えられるような気持ちじゃないんです。辛くても一緒にいたいと思うくらい、好きなんです」
僕は告白を繰り返す。おじさんは僕の気持ちを否定しながらも、僕が好きだと言うのを待っているような気がするから。本人は気がついていないようだが、確かに、柔らかい瞳をするのだ。
だから繰り返す。何度否定されても。
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