第五章

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「最近、痛み止めの飲む量が増えた気がします」 「そうですか……一度外来に来てもらえるかな? ベースの量を増やした方がいいかもしれない」 「ベース?」 「うん。頓用とは別に朝晩毎日飲んでらっしゃるんだけど」  僕は、あまり詳しいことはわかっていない。時々、こうして久住先生と顔を合わせた時に教えてもらっている。 「わかりました。連れて来ます」 「倉田君は、最近どう?」 「僕は大丈夫です。結構ウザいくらいに、おじさんに絡んでます」  本当にこれが僕かと、自分でも信じられないくらい積極的になっていると思う。苦笑しながら答えると、久住先生も微笑む。 「うん。わかった」  そのときまたPHSが鳴って急患が運ばれてきたようで、久住先生は慌ただしく駆けて行った。  久住先生に言われた、僕が望む「その先」を、僕はおじさんに言えない。いくら僕の気持ちを嫌がっていないようだとは言っても、父のことがまだ好きなおじさんに「付き合ってくれ」と言うのは、ただ迷惑に感じさせるだけだろう。  大丈夫。あの柔らかい瞳が見られるだけで、僕は嬉しいから。
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