第五章

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「父さんとの思い出の場所とか、他にないんですか?」 「んー、学校と花火が俺のここに来た目的だったしなあ。凪とは凪との思い出を作りてえな」  そうやって。また僕の胸を詰まらせる言葉ばかり言うんだ。 「僕は、場所はどこでもいいです」  一緒にいられるなら。 「じゃあ、ちょろっと散歩して戻ってくるか。ほら、隣の駅の駅前にアイスクリーム屋あるじゃん? アイスなら喉通るからさ、食べに行こう?」  はい、と答えて、僕は笑った。  大丈夫。大丈夫だよ。好きだと、まだ言える。  夏休み真っ只中のアイスクリーム屋は、当然行列を作っていた。暑い中おじさんを並ばせるのは非常に心配で僕は帰ろうと言ったが、大丈夫大丈夫とまた軽く流されてしまった。  アイスを食べたところまではよかったのだが、やはり帰り道、おじさんは少し疲れを見せた。痛むのか、ミネラルウォーターを買って薬を飲んだ。  飲んでもまだ苦痛に顔を歪めてベンチに座っているおじさんに、僕は迷いながら話しかける。
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