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話したいと言った。過去を、父を見たいのではなく、僕と話したいと。
「なあ、朝顔どうしたんだ? ちっちゃい凪、頑張って持って帰ってきたんだろうなあ」
深い黒の優しい瞳は、僕をまっすぐに見つめている。そこに死の恐怖の色は見えない。穏やかに笑っている。
温かい声音は、僕を慈しんでくれているよう。
綺麗だと思った。その顔も、声も、仕草も、全部。
「夏彦、さん、……好きです。好きです……っ」
馬鹿のひとつ覚えみたいに、僕は好きだと繰り返す。よく考えて、僕はおじさんに自分の気持ちを伝えてきたつもりだ。でも今は、何も考えられなかった。ただ言いたかった。欲しかった。綺麗なこの人が。
「凪、それは」
「やめてください。勘違いだとか言うのは、もう」
「凪は優しいから、俺に同情して」
「そうじゃないことくらい、わかるでしょう!?」
叫んだ僕に驚いて、おじさんは起き上がった。
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