第五章

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   酷い言葉を放っている。これまでの関係を全部壊すような、酷い言葉だ。  綺麗事を言っていた。僕の望みは伝えない。困らせるからと。でも今放った言葉は、パートナーになりたいという気持ち以上に困らせ、傷つけるもの。  堪えられなかった。終わりに近づいたというおじさんの言葉を聞いたら。自分に繰り返し聞かせてきた綺麗事を、全部ぶち壊したくなった。 「ねえ、似てるでしょ? 父さんと重ならなくなったって言ったって、でもやっぱり僕と父さんは似てるでしょ? 身体の具合も似てるかもしれな、」 「凪」  何も見えなくなった。僕が放った酷い言葉に顔を歪めていたおじさんが見えなくなった。それは抱きしめられているからだと気がついたのは、おじさんの胸の鼓動と、体温を感じたからだ。  僕は膝立ちのまま、起き上がったおじさんに抱きしめられている。
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