第五章

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 睨みつけてくるおじさんに、とうとう怒らせたのだとわかる。  痛いくらいに腕を引かれ、僕はベッドに倒れこむ。逆におじさんはベッドから立ち上がった。そのまま出て行ってしまうかもしれないと思ったおじさんは、僕に覆いかぶさった。  恐る恐る見上げると、おじさんの瞳が涙に濡れているのがわかった。 「もし、俺にもっと時間があれば。もっと生きられたなら。一緒にいる時間を重ねて、言葉を重ねて」  僕をぎゅっと抱きしめて、おじさんは僕の耳元で嗚咽を漏らす。 「凪を、好きになってた……っ」  胸が痛い。見上げている天井が滲む。少し起き上がったおじさんが、僕を真上から見て、その天井は見えなくなった。涙が拭われて、滲んでいたおじさんの表情がはっきりとわかるようになる。痛みに耐えるような、表情が。
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