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◇
母が帰ってきたのは、日もすっかり落ちてからだった。恐らく、靴があるにも関わらず部屋の灯りがついていないことを不審に思ったのだろう。すぐに二階の僕の部屋のドアをノックした。
「凪―? 帰ってるの?」
僕は涙を拭って立ち上がり、部屋の電気をつけた。ドアを開けて僕を見た母はぎょっとする。
「どうしたの!? 髪も乾かさないで! 泣いていたの……?」
さっきシャワーは浴びたけれど、髪を乾かす余裕はなかった。
母に心配をかけることはしたくなかったのに、情けない自分を取り繕う余裕もなかった。頭からタオルを被り、Tシャツを所々濡らした状態で、母の前に突っ立っていた。
「今日は柏木さんに会いに行っていたのよね? 何かあったの?」
「うん……」
母には、おじさんが病気であることは話していない。ただ、僕の様子から感じ取ってはいるのだと思う。僕がおじさんに、何か特別な想いを抱いていることは。僕が同性愛者だということは、高校の時の一件から、知られているから。
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