第五章

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 笑った母を見て、僕はやっと動く気力が湧いてきた。一階のリビングに降りて行く母を見送って、僕は軽く髪を乾かす。それから、おじさんにメールをした。まだ自分の心の整理もついていないが、調子が悪そうだったおじさんを一人で帰してしまったから、不安だった。  「今日はごめんなさい。また行きます」という簡単な文面しか打つことができなかったが、「俺もごめんな」とすぐにおじさんからも簡単なメールが返ってきたから、一先ず安心した。  それから母が用意してくれた夕食を摂った。母の帰りが遅い日は僕が作ったりもするのだが、今日は何もしなかったから申し訳なかった。せめて後片付けはしようとしたが、いいから今日は早く寝なさい、と言われてしまった。  食事を終えて一息ついてから、おじさんの話をした。末期の癌であること、僕が望んだから、すべての病状、治療を教えてもらっていること。……僕がおじさんの、支えになりたいと思っていること。それなのに、静かなおじさんの心を乱すようなことを僕が言ってしまったことも話した。
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