第五章

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「あの頃も凪は、いろんなものを抱えていたでしょう? それに、凪にはかっこいいところを見せたかったんだと思う。最期まで、父親らしくいたかったのよ」 「でも母さんは……辛くなかった……?」  弱る姿を、父が母にだけ見せていたというなら、母は苦しい思いをしたはずだ。それを一緒に暮らす僕には話すこともできずに。 「何もできなくて、もどかしくて辛かった。でもね、凪には必死に笑顔を向ける姿を見て思ったの」 「何を……?」  母は淡く笑顔を浮かべるが、眉を下げて今にも泣き出してしまいそうだった。 「私には、弱音を吐いてくれてよかったって。一人で抱え込むことなく、苦しさも無念も、話してくれてよかったって。私も、我慢せずに弱音を話したの。お父さんとお互いの気持ちを、わかち合うことができたから、私は今こうして凪と一緒に笑って話をできるんだと思うの」
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