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ーーはらぺこだった。
もう何日もろくな飯にありつけてない。目の前では美味しそうな焼き鳥が炭火に当たってジュージュー音を立てている。
祭りの縁日は、金のないホームレス同然の若者にとっては、毒のようなものだ。
美味しそうなじゃがバターの匂い、お好み焼きの焼ける音、綿あめを口にする子ども、じゃんけんに勝って、チョコバナナを2本手にする女性…。
おまけで多めにもらった唐揚げなら、僕に一口分けてくれないかあ…。
僕は、ポケットの中を手探りした。
ジャリ。
お願いだ、百円玉よ出てこい!たい焼きなら一個買える!それよりも、今日は暑いから、せめてラムネでも飲みたいなあ、と思っていた。
現実は甘くない。
僕の指は、硬貨に穴を見つけてしまった…。せめて五十円…。
その触れた感じは、自分の知っている五十円玉の感覚とは明らかに違うと思いつつも、自身の触覚の方を疑って、視覚に頼ろうとした。
結果、それはまぎれもない五円玉であった…。
五円玉を握りしめた人間が、祭会場である神社の境内でやることといえば、決まっている。
チャリンチャリン。
ガラガラ。
パンパン!
願うことはもちろん。
(たらふく飯が食えますように…。)
はー、願うだけで飯が出てきたら、わけないよな…。せめてどっかに百円玉でも落ちて…。
…ダメダメ、ドロボーは良くないよな…。それに神さまのものを盗んだらどんなバチが当たるか…。
…はあ、やばいやばい。とうとう魔がさしたか…。疲れてきてんだなあ。というか空腹とこの暑さで頭がどうにかしちゃったんだな…。
後でテキ屋のあんちゃんに頼みこんで、店番でもやらしてもらって、おこぼれでももらうとすっかな。
あれ?なんだか静かだ。おいおい、もうお祭り終わっちゃったか?
さっきまで露店の並んでいたところに戻ろうと、あたりを見回したが、なぜだかどこもうっそうと木々が生い茂るばかりで、方向がわからなくなってしまった。仕方なしに、手当たりしだいにあたりをうろうろと彷徨い歩いた。
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