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少年は慌てていた。
流れていくパンを掴もうと手を伸ばした拍子に鞄が肩からずり落ち、ベルトコンベアの上に乗って食料と一緒に流れていきそうになる。それを片手で掴み、大きく放り投げるように背中に回した。鞄が何かに当たった気がした。
少年の後ろで笑い声が上がった。
「おいこら」
自分に向けて言われたと思っていない少年は振り返りもせずにパンを鞄に詰め込んでいた。
急に背中を押され、ベルトコンベアの上に倒れそうになる。
後ろを振り向くと、少年の肩までも届かない子どもが睨みつけていた。
「おまえだよ」
子どもがまっすぐ少年を指さした。
少年の周りにいた男たちが距離をとるように離れていく。
少年はようやく自分が話しかけられていたことに気がついた。
外では誰とも話すなとおじさんに言われている。少年は何も言わずにその場を離れようとした。いざとなれば走って逃げるつもりだった。
「なんだこら」
少年は薄ら笑いを浮かべた子どもたちに囲まれていた。
ガキどもだ。
どうやって逃げるか。
少年が走り出そうとしたその瞬間を正確に狙って目の前のガキが少年の足を払った。少年は為す術も無く地面に転がった。鞄を握り締めていたせいでうまく手をつくことができず肩を強く打ちつける。無防備な腹を狙って足が飛んできた。あまりの苦しさに息もできず身体を曲げる。何の容赦も無く口元を蹴り上げられる。
血の味がした。
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