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寄り道さえしなければ配給所まではそれほど時間はかからない。
大きい通りから脇に逸れる。高い廃墟に挟まれた細い路地を進む。建物と建物を結ぶ橋の下をいくつかくぐり抜けると、ぽっかりと開けた場所がある。おじさんが学校と呼ぶ背の低い建物は、その開けた場所の一角に建っている。
学校の中はほとんど鍵がかかっていない。他の建物と同様に鍵のかかっていない部屋のほとんどは空っぽだ。
3階の突き当たりにある鍵のかかった部屋が、少年のめざす場所だった
おじさんからもらった鍵を使ってあちこちを探索し始めてすぐのことだ。前から気になっていた鍵のかかった部屋を片っ端から開けていた少年は、床に落ちていたこの本を見つけた。おじさんの部屋でも図書館でもない場所にある本。おじさんからその存在は聞いていた。実際に見つけるのは初めてだった。
学校は本を見つける前から少年のお気に入りの場所だった。初めてひとりで見つけた本を少年は本棚に最初に入れた。それから少年は本を見つけるたびに本棚に並べていった。まだ棚の一段も埋まっていない。どの本も何度も何度も読み返していた。
少年は本棚から取り出した本を膝の上で開いた。
少し年上に見える男たちが集まっている写真が載っていた。数字と文字が記号のように並んでいるだけの本だ。長い文章は見当たらない。
男たちは誰も彼もが驚くほど似ていた。同じ服を着ている写真では、ひとりひとりの区別がつかないほどだ。髪の毛が特徴的だった。居住区の男たちは肩ぐらいまで、もしくは、それ以上の長さに髪を伸ばし、気が向いた時に包丁を使って自分でばっさりと切る。ところが、写真の男たちは耳が出るぐらいまでの長さに短く髪を整えている。
おじさんと少年はこの写真の男たちと同じ髪型だった。
少年の髪は伸びるとおじさんが鋏で切ってくれる。おじさんの髪は少年が鋏を使って切る。自分がいつからおじさんの髪を切っているのか少年は覚えていない。思い出せないぐらい前から、おじさんの髪の毛をずっと切り続けている。
ひとりで外に出る時は絶対にフードを外すなとおじさんに言われていた。
もしかすると、おじさんはこの写真の男たちのことも知っているのだろうか。
また、鐘の音が聞こえた。
少年は長居をしてしまったことを後悔していた。
本を閉じ、棚に戻す。
また、来よう。
少年は鞄をつかみ、部屋を出た。
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