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少年が去るのを待っていたかのように人影が静かに学校に忍び込んだ。
さっきまで少年がいた本棚のある部屋の前で人影は扉を開けようとしていた。鍵がかかっていることに気づくと階段を降り建物の外に出る。
しばらく壁を見上げた後おもむろに窓枠を掴み身体をひょいと持ち上げた。僅かな出っ張りを手がかりに、あっという間に三階の窓までたどりつく。外から窓を開けようと何度か試みた。窓は開かない。窓にも鍵がかかっているようだ。
足を振り上げる。その足で窓ガラスを蹴った。割れない。膝を打ちつける。やはり割れない。
人影は躊躇無く手を離し地面まで飛び降りた。長く伸びた茶色い髪がふわっと広がり、空気をはらんで大きく逆立つ。地面に着地すると同時に深く沈みこみ、横に倒れるように転がりながら衝撃を受け流す。
起き上がった人影は、三階の窓の上、屋根との間で外に飛び出している大きな換気口をめざして先ほどと同様に窓を伝ってのぼっていく。またすぐに近くまでたどりつく。手を伸ばし換気口を確かめるように触ってみる。一旦屋根までのぼり、屋根の端にぶら下がるようにして、換気口を蹴った。乾いた音を立ててゆがんだ。何度か蹴ると音が変わった。足を乗せて体重をかける。何度か踏み込むと、軋みながら壁との間に隙間ができた。さらに体重を乗せると換気口は音を立てて外れ壁からぶら下がった。
人影は開いた穴に足を乗せる。片手で屋根にぶら下がったまま、もう片方の手を開いた穴に突っ込む。その姿勢で屋根を掴んだ手を離し一気に体を縮め両手と両足を踏ん張るようにして小さな穴に身体を寄せた。次の瞬間、身体を丸め穴の中に滑り込んだ。
人影は本棚の前にいた。棚から取り出した本を開く。茶色い髪をかきあげ、真剣な面持ちでページをめくる。棚に戻す。何冊か繰り返す。やがて、少年がさっきまで見ていた写真の本にたどりつく。その本も同じようにページをめくる。
あるページで動きを止めた人影はポケットを探り何かを取り出した。
同じものが写真に写っている。
写真の中の男は人影がポケットから取り出したのと同じものを持っていた。
「これは、何だ?」
思わず声を出していた。
答は返ってこない。
人影の他にそこには誰もいない。
本を閉じ窓に近づく。開けた窓から外に向かって飛び降りる。
また、茶色い髪が広がった。
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