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「ふたりは、この神社の神様の近くで生まれたでしょう。そういう子に一生に一回、ここの神様が贈り物をくれるみたい」
「え、じゃあもらっちゃおう」
「やった!」
ぼくは青のビー玉を短パンの、夕海はオレンジ色のビー玉をスカートのポケットにそれぞれいれた。心から会いたいと願った人がいたら、このビー玉を持ち、神社で祈れば一度だけ会えるらしい。
「そう、私も願いが叶ったのよ」
と女のひとが言った。
そのあとはぼんやりとしてあまり覚えていない。
いつのまにか女の人は居なくなって、ぼくたちは日暮れを告げる、夕焼け小焼けのメロディに追われるように、家に帰った。
『心から会いたい人』なんて、芸能人とかヒーローとかしか、その時は思いつかなかった。
そしていつしかぼくはビー玉を、宝物入れにしていた鳩サブレの黄色い缶にしまいこんで、忘れてしまった。
夕海は中学三年の時に、
父親の転勤で遠くへ引っ越しが決まった。
引っ越しのトラックのそば、制服姿でたたずむ夕海がちらっとぼくを見た。
さようならは言わなかった。思春期だったから、言いたいことなんていつも言わないことにしていたんだ。
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