《第1章・失恋しました》

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グレーのスーツ・黒のネクタイの黒髪の男は、 すがりつく女を突き飛ばした。 『待って!あたしあなたに合うように頑張って良いおん…ーー』 『思いが重いって何度も言っただろう!』 男はポケットからケースを出し女の足元へ放った。 俺は無意識に駆け出して、男の肩に右手を当てた。 身長男の方が20㌢高いけど男の胸ぐらをグッと掴む。 『きみ、何か?』 『あんたは最低ですっ!俺はさっきからずっと見ていましたからね!』 男が腕を上げると高そうな時計がチラリと見えた。 『部外者は口を挟まないでいただきたい。 きみはここの店の従業員だろう。 私の胸ぐらに手をかけました、と言いに行きましょうか?』 所詮俺はバイトの身、店に迷惑はかけられない。 黙って男を睨んでいたが、時計がキラリと光ったかと思うと同時に俺は道路に転がされた。 『ひどい!見ず知らずの人にまで手をあげる事ないじゃない!』 『黙れ!おまえとも今日限りだ。 婚約指輪売れば結構なお金になるだろう。 取っておきたまえ』 『修治さん!』 『名前で呼ぶのも最後にしていただきたい、じゃ』 男は高価そうな車に乗り込んでコンビニ駐車場から姿を消した。 『くそぅ!』 俺は柄にもなく車に向かって毒舌づいた。 『波留っ!』 『あぁ?…今行きますよっ』 スカートの埃をはらっていた女の人へ視線を向ける。『大丈夫…じゃなさそう』『平気、かばってくれてありがとう』 胸までの黒い髪を後ろに払い、その女の人はケースを俺に差し出した。
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