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「だから、ほんとなんだって」
休み時間、隣のクラスからハジメはわざわざやってきて、私に筒のようなものを見せびらかした。
「ただのラップの芯じゃん」
「違う違う、あいつの家に代々伝わる大事なものなんだってさ。それを俺がたったの2000円で譲り受けたわけ」
ハジメは学年の中でも一番背が低く、学ランを着た小学生にしか見えない。
中身までこんなに幼いのかと、幼馴染の私はため息をついた。
「・・・ハジメは中2にもなってなんで自分が騙されてるってわからないかなぁ」
「サトミはさ、男のロマンってものがわからないんだよな」
「ロマンって。マロンの間違いじゃないの。ハジメ昔からマロングラッセ好きだったもんね」
ハジメは私の前の席の椅子に後ろ向きに座り、得意げに語り始めた。
「説明しよう!この筒、その名も『望みを話せば相手に気持ちの通じる筒』」
「長い」
「略して『ロマンの筒』!・・・これいま考えたけどね。つまり、この筒に向かって愛の告白をすれば、100パー叶うのである!」
あれれ、ハジメが「愛の告白」なんて言う?
「話すときは、相手の耳に筒をつけて、手で支えてもらうのが条件なのである」
「・・・へ?」
「あいつそう言ってた」
「それってさ、つまり相手の人に『あの、今からこれ耳に当てるんで、持っててくれませんか?』って言うってことだよ」
ハジメは固まった。
「それを『うん、いいよ』って言ってくれるような関係性ができてなきゃダメってことじゃん」
「うぬぬ、一生の不覚!」
ハジメは私の机につっぷし大げさに頭を抱えた。つむじが二つあること、他にも知ってる女子いるのかな。
私のいじわる心に火がついた。
「ハジメ、ちょっとこれ耳に当ててみてよ」
「おう、こうか?」
私の脈拍数が上がる。
「・・・すきなんだけど」
ハジメの顔が、真っ赤になっていった。
3時間目のチャイムが鳴る。
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