第1章

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俺はテーブルのスマホを拾い上げた。 もしかしたら。  寝ぼけながら読み流していたアプリの説明文を必死で思い出した。 たしか、あれには……。 すべては思い出せなかったが、一つの文だけ思い出すことができた。 〝なかったことになる〟 そんなことが書いてあったはずだ。 信じられなかった。そんなものが可能だとは思えない。 しかしタバコはどこへ行ったんだ。なぜ開けた箱が開いていない? 本当だと仮定すると、ダイヤルは恐らくなかったことにする時間を指定するものなのだろう。 俺はものは試しとタバコを開け、冷蔵庫からコーラを取り出した。 そしてダイヤルを時間の部分だけ17時に直し、決定ボタンを押す。 その後、コーラを飲みながらTVを見ていた。 ニュースがやっていて、政治家が喋っている。 どこかで見たことがあると思ったら、自分の地元の政治家だった。 何度も失敗し、自殺も考えていたことがあるとインタビュアーに答えている。 復活ストーリーか。結構なことだ。俺のコーラも復活するのだろうか。 そして18時がやってきた。再び、視界が揺れる。 そしてタバコは元通りに未開封。 コーラは目の前から消えていた。冷蔵庫を見るとそこ入っていた。 何となく理解した気がした。 これは本物で、その時間にしたことを〝なかったこと〟にしてくれるのだ。 テレビを見ても何か起こった様子はないので、恐らく決定ボタンを押した人間に関することだけなのだろう。 ふと思い付きパチンコ屋へ俺は向かった。 適当に台を選ぶ。二時間と持たずに持ち金は無くなった。ボロ負けだった。 店を出てダイヤルを回す。決定ボタンを押して少し待つ。 視界が揺れたので、財布を見ていると金が戻ってきていた。 よっしゃあ。これは使える。 負ければなかったことにして、勝ったらそのままにしておけば金が減ることはない。
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