第1章

7/9
前へ
/9ページ
次へ
付き合い始めてから三ヶ月目、その日は俺の誕生日だった。 俺は真夏に産まれたので、誕生日は暑い記憶ばかりだ。 誕生日を祝ってくれるために、彼女は俺の家に来た。 その頃は俺も彼女の本当の気持ちに気付いていた。 〝どうして付き合ったんだろう〟 彼女の本心はきっとこうに違いない。 俺はたまたま二十五分の一の確率で当たりを引いただけなのだ。 何となく投げ槍になった俺は彼女に辛く当たってしまった。 朝から夜まで微妙な空気のまま一緒に過ごした。 「本当は俺のことなんか好きじゃないんだろう?」 最後にはそう言って怒鳴り、彼女を家から追い出してしまった。 本当はどうすればいいのわかっていたのだ。 最初はどうであれ、付き合った後に彼女の気持ちを振り向かせればよかっただけのことなのだから。 俺はとても後悔した。 今日一日をやり直したかった。 俺はスマホを取り出す。 例のアプリを起動させる。 今日の日付にセットされているのを確認し、時間の部分を長押しして消した。 一日丸ごとなかったことにするのだ。 その時、携帯が鳴った。 彼女からの電話だった。 俺がそれに出ると彼女は涙声で話した。 最初はそんなに好きじゃなかったけど、今は大好きになってる。 彼女はそう言ってくれた。 俺は嬉しかった。 そのまま彼女と話し続けた。 電話を切った時、俺はアプリを使う気はもう無くなっていた。 スマホを片手に持ち、夜空を見て幸せを感じていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加