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例のアプリに四葉銀行からメールが届いたのは、あれから一週間後のことだった。
『相沢拓斗様。先日は運資産をご投資頂き誠にありがとうございました。
お客様が投資されました「お母様の手術を無事終了させる」という案件につきまして、
当行で審議をした結果、
この件におきましては「手術そのものが未実施」という見解となりました。
つきましてはご投資頂きました運資産1千8万9千フォルト全額を、
お客様の口座に返却させて頂きます。
今後とも、当行をよろしくお願い致します』
あれからこのアプリを起動する機会は滅多になくなった。
時折、街中で小さい子どもが躓いて転びそうになるのを見て
「大きなケガをしないように」とか、公園の片隅で告白する学生を見かけては「あの子の恋がうまくいくように」と申請みたり、そんなささやかなことに運を使うことが多くなった。
少しだけ、世界が輝いて見えるようになった気がする。
もうすぐ本格的に夏がやってくる。
遠くの空に浮かぶ入道雲を見ながら、退院祝いの花束を片手に、母のいる病院へ向かう電車がホームにやってくるのを、うきうきしながら待ち望んでいた。
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