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母親が倒れて病院に運ばれた。
その知らせを聞いた俺は、電話口の相手に煽られるように身支度を整えてアパートを飛び出した。
電車を乗り継いで母が運ばれた病院へ向かった。
とはいえ、そこまで大事とはこれっぽっちも思っていなかった。
祖父母も亡くなっており、父も行方不明。
加えて自身も家を飛び出した身だ。
ずっと疎遠だった母だが、便りがないのは良い知らせということで、一人で気楽にやっているものだと勝手に思っていた。
何より、母自身も今更俺の顔なんか見たくないだろうと思う。
ちょっとだけ見舞って、すぐに帰るつもりだった。
アパートから一時間半かけて、病院に到着したのは夕方の七時を少し過ぎた頃だった。
診察も終了し、人の気配も少ない病院の入口を入ると受付カウンターの前で一人の看護師らしい女性がウロウロしながら待っていた。
向こうが先に俺の存在に気づいて駆け寄ってくる。
「相沢さん?」
「あ、はい……」
「よかったぁ……。早くこちらへ」
足早に歩き出す看護師の後について建物を奥に進む。
少し息を切らしながら看護師が早口で話しかけてきた。
電話をかけてきたのはどうやらこの女性のようだ。
「連絡ついてよかった。ご家族が息子さんしかいないって言うから、手術承諾書にサインできる人があなたしかいなくって」
「手術って、そんなヤバイんですか」
「そっか……お母様が連絡していなかったのも仕方ないですよね。この一年、入院と退院の繰り返しだったから」
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