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「そうだったんですか……」
便りがないのは良い知らせなんかじゃなかった。
途中で長い渡り廊下を渡って、たどり着いたのは手術室の前だった。
「先生呼んできますから。そこで待っててください」
看護師は廊下の端に置かれたソファを指さすと、足早に去って行った。
俺は脱力してソファに体を沈める。
母さん……。
正直、実家を飛び出して二年間、母親のことなんて全く気にしてこなかった。
月に一回でも、電話くらいするべきだっただろうか。
俺の中にいる母親の姿は二年前で時が止まっている。
「相沢さん」
白衣を纏った男性の医師が駆け寄ってきた。
俺はソファから立ち上がって軽く会釈する。
「申し訳ないが、細かい説明は手術と並行して行います。状況から言いますと、心臓の近くに腫瘍がありまして、いつ破裂してもおかしくない状態です。すぐにでも手術が必要ですので、承諾書にサインをお願いします」
医師はそう言いながら承諾書とペンを差し出してきた。
嘘だろ。そんなにマズイ状況だったなんて。
「あ、あの……今手術すれば、大丈夫なんですよね」
俺が恐る恐る聞くと、医師は気難しい顔で答えた。
「正直申し上げて、腫瘍がかなり複雑な位置にありまして……。
最善は尽くしますが……」
「嘘でしょ!お願いしますよ!ねえ!」
俺は殴るように承諾書にサインをして書類を突き返した。
医師と看護師はそれを受け取ると走って手術室に姿を消した。
俺は再びソファに体を落として、壁にもたれかかった。
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