運のご利用は二十歳から

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「相沢様、大変お待たせいたしました」 重たそうな木目調のドアを開けて入ってきたのは五十代半ばのメガネをかけた男性行員だった。 明るめの青いジャケットにベージュのスラックス。髪はオールバックでキレイにまとめられ、手には書類の束を抱えていた。 「本日はご来店ありがとうございます。今回相沢様を担当させて頂きます神木(かみき)と申します」 神木と名乗るその男性は、丁寧な口調でそう言いながら名刺を差し出した。 名刺交換なんてしたことのない俺は、小声で「どうも」と言いながらぎこちない動作で両手を差し出し名刺を受け取る。 神木は手にしていた書類の束をテーブルの上でキレイに並べると「失礼します」と言って俺の向かい側に腰を下ろした。 「それでは早速、資産運運用に関してのご契約内容を説明……」 「ちょ、ちょっといいですか」 「はい?」 俺が言葉を遮るように口を挟むと、神木は目を丸くしてこちらを見た。 「えっと。今、何て」 「ですから資産運運用のご契約を……」 「資産運用ではなく、ですか」 「いえ、資産、運、運用でございます」 「あの……資産、運、運用っていうのは……」 俺がそう言うと神木は、ぎょろりとした目を先ほどよりさらに丸くして口を半開きにした。 「ご存じない!これは大変失礼いたしましたぁ!」 神木はそう言って深々と頭を下げると、持ってきたクリアファイルからカラー印刷のチラシを取り出して俺の前に差し出した。 金色の、招き猫に似た巫女服のキャラクターが左手に御幣、右手にスマホを掲げていた。 ――はじめての資産運運用に強い味方!アプリ版がついに登場!!―― 俺はもう、いつドッキリのプラカードが出てきてもいい心の準備を始めていた。
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