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「……冗談ですよね」
チラシの内容を流すように読んで、俺は神木の顔を見て言った。
神木は少し困ったような表情を見せると、申し訳なさそうな声色で説明を始めた。
「相沢様。当行は、お客様を騙すような行為は一切行いません」
そう言うと神木は右手を上げて、壁に貼られたポスターを指示した。
ポスターには『絶対の信頼と安心を』という四葉銀行のスローガンが掲げられていた。
「で。結局、この運資産ていうのは、具体的に何ができるんですか」
ここまで来たら、相手の話しに少し乗ってみようという余裕が出てきた。
「はい。当行の資産運運用では、お客様のニーズに応え、幅広いサービスを提供しております」
神木はそう言いながら別のパンフレットを俺の前に差し出した。資産運運用の一例が並んでいる。
おみくじで大吉を当てる。懸賞に当たる。パチンコで大当たりを引く。試験で得意な問題が出る。就職面接に合格する。
ざっと見ただけでも、運に左右される項目が列挙されているのがわかる。
要するに、資産運運用することによって強制的に運を引き寄せるということなのだろう。
全然納得できない。
全くもってピンとこない。
運なんて形のない物を、どうやって操るというのだろうか。
本当に騙されてないのか。だが四葉銀行は都市銀行の大手だ。顧客に対して詐欺をはたらくとは到底思えない。
俺が難しい顔でパンフレットを眺めていると。神木がさらに一枚の書類を差し出してきた。
左上に「アイザワタクト様」と書かれた白い紙には「運資産残高」の欄に500,000フォルトと記載されていた。
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