君しかいらない世界

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「佳奈のことがこんなに可愛く見えるのは、私だけだったのね」 そう言って、私の手のひらに何かをおいて、ぎゅっと握らす。 恐る恐る開いてみると、それはかつて、相川が藍子にプレゼントした指輪だった。 私が、藍子と出会ってから5年間、こっそり身につけ続けていた指輪のデザイン違い。 私はただ、藍子から、藍子の隣にいるのに相応しくないと思われたくなかった。 それだけだったのに。 「ねえ、3年前、私がこれをはめたとき、佳奈には私がどう見えた?」 3年前までは幼かった色香が、滴るほどに成熟して私を飲み込む。 あのときも、その前も、その後も、 ずっと、 彼女はずっと、私には美しく見えていた。 だから、海外に逃げたのだ。 このままじゃ、危ないと思ったから。 だから、相川に譲ったのに。 私は、彼女に心底惚れていて、 けれど、それよりもっと、彼女のことが怖かった。 だって、 こんなに美しいものに触れたらもう、どこにも戻れなくなってしまう。 ピンクの唇が、誘い込むように開いていく。 「今度は、ちゃんと佳奈がはめてよ」 強すぎる誘惑に抗えず、私は藍子の薬指に、ゆっくりとリングを通した。 付け根まで届いた瞬間、世界が変わる。 「…ほら、これで私たちは二人きり」 世界の全てが色褪せる中、私はただ一つの極彩色を手に入れた。
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