君しかいらない世界

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「俺、藍子ちゃんのこと、…好きかもしれない」 そう言いだしたのは、私と同じ日本文化研究サークルに所属している、相川塔矢だった。 相川は、どこかのアイドルみたいな、イケメンに分類される容姿を持っているにもかかわらず、 真面目で、多岐にわたる分野に詳しくマニアックで、長期休暇の間には一人で遺跡をまわる一風変わった男だった。 歴史好きな私と彼には共通の話題が多く、たまに二人で飲みに行くこともあり、そこに藍子が合流したことは確かにあった。 あったけれど、片手で数えるほどしかない。 恋とは落ちるもの、とはよく言ったものだと思う。 「…そっか。…実はね、藍子も、相川に気があるみたいなんだよね」 「えっ、それ、…本当?」 相川の目が煌めいた。そして、一瞬で宿る不信。 そりゃあ、そんなうまい話、すぐには信じられないだろう。 けれど、嘘じゃないのだ。残念ながら。 相川と藍子と、初めて飲んだすぐ後、藍子は相川について詳しいことを聞きたがった。 最初は「もしかして佳奈といい感じなの?」とか「佳奈に男友達がいたなんて」とか言っていたけど、 そういう関係じゃないとわかると「塔矢くんと飲むときは声かけてね」と、あの美しい笑みでお願いされた。 二人は、私を媒介にして急速に仲を深め、すぐに付き合いだした。 藍子と塔矢から「ありがとう」と言われたとき、私は笑顔を作ることで精一杯だった。 藍子は、今までの男遊びが嘘のように、相川に対して一途になった。 口を開けば「塔矢が」「塔矢が」ばかりで、クラブやイベントごとには一切行かなくなった。 私は、苦笑いで応えるしかなく。 相川は相川で、そんな藍子に夢中で、そして、いつも不安で仕方がないようだった。 「藍子、モテるから」 自嘲する相川は本当に悲しげで、私はしたくもない慰めを強いられていた。 「大丈夫だよ。藍子、本当に相川のこと好きだよ」「前までは彼氏がいても気にせず遊んでたのが、ピタッとなくなったんだよ。自信持ちなよ」なんて、 なんで私がこんなことを言わなければならないんだと苦しくなった。 強すぎる想いは、毒だ。 藍子と相川は何度も大きな喧嘩をして、その度に私は二人の間を取り持った。 限界は、すぐにきた。 二人のじゃない。 私が、限界だった。
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