君しかいらない世界

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「ねえ、相川。藍子の誕生日プレゼントに、これどうかな?」 そう言って勧めたのは、小ぶりの石がついた、華奢な指輪だった。 パワーストーンというやつだ。 この指輪の広告を最初に見たのは、雑誌の一番後ろのページだった。 『飲み続けるだけで背が伸びる』とか『身につけるだけで女の子にモテまくるミサンガ』とか、そういう胡散臭い商品の中のひとつ。 『もうあなたしか見えない!恋人をメロメロにする指輪』という売り文句が添えられていた。 デザインが可愛くて、つい説明文を読んでしまった。 曰く、恋人に対してのみ、フェロモンを集中的に浴びせられる作用を持つとかなんとか。 ご丁寧に大層な図解や、数値まで載っていて、つまり、その指輪をつけると恋人以外の人間からはモテなくなり、恋人からは更に魅力的に映るようになるということだった。 なんだかそのコンセプトが気に入って、デザインもお値段も可愛かったから、 高校生だった私は、好きな人もいないのにその指輪を購入した。 結果、その指輪は本物だった。 広告は一度しか見なかったけど、 後から調べたら、いつの間にか立派なウェブサイトができていて、 おまじないグッズとして一部の間でヒットしていた。 と言っても、効果は人によって出たり出なかったりするらしく、 噂をする人たちの間でも、有名な神社へ願掛けするのと同じくらいのノリで信仰されていた。 その指輪のことを教えると、相川は「神頼みか」と笑った。 いろんな知識を取り入れてる相川は、まじないとかそういう類のものに対して基本、懐疑的だ。 それでも、藁にもすがるような思いだったんだろう。 相川は、まんまとそれを買って、藍子にプレゼントした。 生真面目な相川は、その指輪の効能もきちんと説明したらしい。 藍子からは「素敵なプレゼントをもらった」と報告があった。 その後、確かに、藍子がたれ流していた色香は失われたようで、 藍子はめっきり、誰からも声をかけられることがなくなった。 それを確認したとき私は、 酷く安堵し、同時に絶望したことを覚えている。
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