君しかいらない世界

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「乾杯」 超特急で届いたグラスをぶつけて、一気に半分飲み干す。 喉がカラカラだった。 私は、緊張していた。 藍子は3年前と変わらず、ビールを少しずつ飲んでいた。 ビールってそういう飲み方する物じゃないでしょ、と何度も突っ込んだことを思い出す。 お通しをつまんで、ビールに口付けて、一息。 「私ね、佳奈にずっと話したいことがあったんだ」 唐突に切り出した藍子の頬は、朱色に染まったままだった。 結婚とか、妊娠とか、今日、そんなワードが出てくる覚悟はしてきた。 あの指輪を外していたのは予想外だったけれど、婚約指輪に買い換えたのかもしれない。 法的に認められて、守ってもらえるなら、もうあんなアイテムは必要ないのだから。 「相川くんとね、私」 視線を落とした。 耳はいいけど、目は覚悟できてなかった。 あんな美しい女に、幸せそうに微笑まれるのは耐えられない。 「佳奈が留学してすぐ、別れたんだぁ」 「………え?」 「あはは、すごいびっくりしてるね」 思わず彼女を凝視すると、無邪気に笑っていた。 動揺したまま、手元のハイボールを一気に飲み干す。 「なんで…?」 「錯覚だったんだと思う」 「さっかく?」 「佳奈と恋の話ができるのが楽しくって。ケンカしたりして泣きつくと、本気で相談乗ってくれたから。今までの恋と違うって勘違いしちゃったの」 「かんちがい…」 そんな、そんなものに振り回されて、私はあんなに苦しんだのか。 上手に譲れた、と思っていたのに。 なんの意味もなかった。 藍子のせいではないけれど、どうしても上手く笑えなくて。
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