君しかいらない世界

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「相川は?藍子に振られて、あっさり引き下がったの?」 あんなに藍子に夢中だった相川だ。 彼は、ひとつのことに集中しすぎるきらいがあったから、別れるのは大変だったんじゃないだろうか。 初めて、藍子の表情に申し訳なさそうな色が浮かんだ。 「あの指輪、覚えてる?」 首を傾げた拍子に、さらりと黒髪が揺れる。 優美なその動きに目を奪われて、すぐにごまかしの言葉が浮かばなかった。 「え、っと」 「あの指輪を塔矢に教えたの、佳奈でしょう」 答えは最初からわかっているような、藍子の態度に、無言で肯定する。 「やっぱり」と藍子は笑った。 「あれね、商品説明には、恋人に効果があるって書いてあったけど、本当は違うの」 内緒話をするみたいに小声で話すその内容を、私は、とうの昔に知っていた。 「自分が好きな人に対して、その愛情分、魅力的に見えるアイテムだったんだよ。 だから、佳奈がいなくなって、急に魅力がなくなっていく私を見て、気付いちゃったみたい」 そう言って、藍子は一向に減らないビールをまた飲み下した。 残酷な指輪だね、と彼女が言うのに、 残酷なのは指輪じゃない、とどうして言えただろう。 「それでね」 終わったと思った会話は、続いていたらしい。 にわかに声のトーンが下がったので、不思議に思って顔を上げると、 思いの外真剣な顔があって、ギクリと心臓が跳ねた。
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