君しかいらない世界

9/10
前へ
/10ページ
次へ
「私、気付いたの」 「…何に?」 ばっくんばっくん暴れる心臓を押さえつけて、平静を取り繕う。 「ずっと、佳奈を傷つけてたこと」 「…何それ、やめてよ」 本当に、やめてほしい。 そんな、自分の方が傷ついているみたいな顔をして、私を見つめるのはやめて。 「ごめんね」 謝られても、惨めなだけだ。 「今までごめん」 グラスを握りっぱなしで冷えた手に、藍子の白くて細い手が重なる。 震える手は、それを払いのけることができなかった。 「…佳奈は、塔矢のことが好きなんだと思ってた。それなのに、その気持ちを抑えて、私の恋を応援してくれるのが嬉しかった」 過去形の言葉に、私は力をなくして、目を伏せる。 「ずっと、不思議だったの」 自分に言い聞かせるように、確認するように、少しだけ力のこもった声を出す。 「佳奈はこんなに魅力的なのに、なんで彼氏が作らないんだろう」 藍子の指が、私の手の甲をなぞる。 「周りの人は、なんで佳奈をほっとくことができるんだろう」 じわり、じわり、核心に近づいて、 「佳奈は、なんでいつも同じ指輪をつけてるんだろう」 こつりと爪の先が、指輪に当たった。 涙がこぼれそうになって、仕方なく顔を上げる。 お願いだから、 その先は言わないで。 そう思うのに、藍子はもう、いつもどおり、美しく微笑んでいた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加