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「私、気付いたの」
「…何に?」
ばっくんばっくん暴れる心臓を押さえつけて、平静を取り繕う。
「ずっと、佳奈を傷つけてたこと」
「…何それ、やめてよ」
本当に、やめてほしい。
そんな、自分の方が傷ついているみたいな顔をして、私を見つめるのはやめて。
「ごめんね」
謝られても、惨めなだけだ。
「今までごめん」
グラスを握りっぱなしで冷えた手に、藍子の白くて細い手が重なる。
震える手は、それを払いのけることができなかった。
「…佳奈は、塔矢のことが好きなんだと思ってた。それなのに、その気持ちを抑えて、私の恋を応援してくれるのが嬉しかった」
過去形の言葉に、私は力をなくして、目を伏せる。
「ずっと、不思議だったの」
自分に言い聞かせるように、確認するように、少しだけ力のこもった声を出す。
「佳奈はこんなに魅力的なのに、なんで彼氏が作らないんだろう」
藍子の指が、私の手の甲をなぞる。
「周りの人は、なんで佳奈をほっとくことができるんだろう」
じわり、じわり、核心に近づいて、
「佳奈は、なんでいつも同じ指輪をつけてるんだろう」
こつりと爪の先が、指輪に当たった。
涙がこぼれそうになって、仕方なく顔を上げる。
お願いだから、
その先は言わないで。
そう思うのに、藍子はもう、いつもどおり、美しく微笑んでいた。
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