256人が本棚に入れています
本棚に追加
/1093ページ
「ただいまー」
「あ、おかえりお兄ちゃん。今日はいつもより少し早かったんだね?」
「今日は授業が終わったらまっすぐ帰ってきたからな。まぁ、もずくを保育園まで迎えにいかないといけないから、またすぐ出るつもりではあるけど」
「じゃあ私はその間、夕飯の買い物にいってくるね。今ちょっと外の雲行きが怪しいから、もしかしたら傘持ってった方がいいかもしれないよ?」
「ああ、了解。ちなみに傘はどれを使えばいい?」
「うーん……二人入るのを考えると、少し大きめのがいいんだろうけど……でもそれだと、花柄かゾウさんの絵柄になっちゃうんだよね。お兄ちゃんはどっちがいい?」
「できれば黒一色とかがいいんだけど、そういった感じのはないんだよな?」
「ないかも」
「ですよね」
「あ、ならこの赤色の傘はどう? 私のだけど、もし使うなら全然持っていって構わないよ?」
「菜沙奈の傘か……赤色も男が使うには中々にキツいな。帰りはもずくと一緒だからいいとして、そこに向かうまでが……」
「それってつまり、この色はお兄ちゃん一人で使うにはキツいってこと?」
「まぁ、そういうことかな」
「……なら、行きしは二人で傘に入ればいいんじゃない?」
「菜沙奈と?」
「うん、それなら問題解決。いっそのこと、買い物もそれから三人でいけばいいんだよ」
「……菜沙奈」
「うん?」
「お前天才か?」
「えへへ、お兄ちゃんが言うならそうなのかもー」
この短時間の間に、なんとしても一緒の傘に入るという高度な心理戦が俺たちの間で行われていたことを誰も知らない(ちなみに帰りは普通に晴れた)。
最初のコメントを投稿しよう!