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「……どうしたもずく? にぃには今ちょっと手が離せないから、蒼空と遊んでいてく……」
「にぃに、いまこいびとがいるの?」
「いません。断じて」
服の袖をひっぱってくるもずくの目を見て、きっぱりとそう言い切る。
「あれ!? どうしてだ!? さっきわたしがきいたときは、まともに返してくれなかったのに!」
「それはまともに訊こうとしなかったお前のせいでもある」
「うむ、言われてみればたしかにそうだ! きびしいお言葉ありがとーございます!」
「そこで礼を言う意味もわからん」
嘆息しつつ、あらためてフライパンに向かう。
中途半端に作業が止まったせいで、集中力が途切れてしまった。深く息を吐き、今一度、手先に神経を集中させる。
すると、また同じ位置で袖が引っ張られた。
「……にぃに、どこにもいったりしない? もずくおいて、どこにもいったりしない?」
「ああ、俺はこれからもずっともずくと一緒だぞ?」
「うん! もずくもにぃにとずっといっしょがいい! もずく、しょうらいにぃにとけっこんするの!」
「そうかー。でもそれだとまず、根本的に法律から変える必要があるかもなー?」
無邪気な笑顔を見せる妹。
すぐ近くから「ほうりつってなんだ?」という声が聞こえてきたが、それに答える前に、声の主はもずくを連れてキッチンから去っていった。
そして今さらだが、どうしてこんな時間に俺が台所に立ってるのかと言うと、それは妹たちに料理を振る舞おうとしたからである。
家族サービスしようと思ったら、その家族にサービスを邪魔されるとは、まさに皮肉としか言いようがない。
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