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「えーっと……。俺、どこまでやったんだっけ?」
目の前のフライパンには、あら熱を取った事で外周がパリパリになった卵焼きが乗せてある。
しかし、隠し味のチーズが若干焦げて、なんとも形容しがたい出来栄えになっていた。一緒に入れたパプリカは黒に汚染され、食欲を減退させるのに十分な役割を果たしている。
ぶっちゃけ、失敗作以外の何物でもなかった。
「……やはり変に自分流にアレンジするのは危険、と。そうして俺はまたひとつ、レシピ通りに調理する事の大切さを知ったのだった……」
「お兄ちゃん、なにやってるの?」
振り返ると、そこには洗濯を終えたばかりの菜沙奈が立っていた。
作業がひと段落したのは同じだが、その結果には天と地ほどの差がある。
「あー……うん。これはあれだ菜沙奈」
逡巡した後、背後の惨状を見せつけるようにして。
「蒼空ともずくに、決して変わることのない家族の繋がりってやつを語ってたら、つい熱が入ってこうなったんだ」
「そうなの? 蒼空ちゃん」
それと同時に、蒼空ともずくが二人そろって菜沙奈の背後から顔をのぞかせる。
「あと卵をわたしにかけようともしていたぞ! 主にこた兄ぃが! 主にこた兄ぃが!!!」
「こいびと~! もずく、にぃにのこいびと~!」
「……」
虚実入り混じった情報の漏えいに、思わず菜沙奈の顔を見る。そこには、なんとも形容しがたい、家族として本気で兄を心配している妹の表情があった。
結局、その日の昼食は焦げ臭さが鼻につくメニューとなったが、何故か妹たちには好評だった。
俺はその事実だけで、ご飯を4杯おかわりしたのだった。
人に「いつもどんな休日過ごしてる?」と聞かれて、こんな幸せな休日って答えると大抵、距離を取られるのだが、どうしてか理由は未だわからないままである。
幸せの形は人それぞれだ。いや、これは単に妹たちが良い子というだけの話だ。兄としての尊厳ゼロだな俺。
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