湊さん家の兄と妹たち その1

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「えーっと……。俺、どこまでやったんだっけ?」 目の前のフライパンには、あら熱を取った事で外周がパリパリになった卵焼きが乗せてある。 しかし、隠し味のチーズが若干焦げて、なんとも形容しがたい出来栄えになっていた。一緒に入れたパプリカは黒に汚染され、食欲を減退させるのに十分な役割を果たしている。 ぶっちゃけ、失敗作以外の何物でもなかった。 「……やはり変に自分流にアレンジするのは危険、と。そうして俺はまたひとつ、レシピ通りに調理する事の大切さを知ったのだった……」 「お兄ちゃん、なにやってるの?」 振り返ると、そこには洗濯を終えたばかりの菜沙奈が立っていた。 作業がひと段落したのは同じだが、その結果には天と地ほどの差がある。 「あー……うん。これはあれだ菜沙奈」 逡巡した後、背後の惨状を見せつけるようにして。 「蒼空ともずくに、決して変わることのない家族の繋がりってやつを語ってたら、つい熱が入ってこうなったんだ」 「そうなの? 蒼空ちゃん」 それと同時に、蒼空ともずくが二人そろって菜沙奈の背後から顔をのぞかせる。 「あと卵をわたしにかけようともしていたぞ! 主にこた兄ぃが! 主にこた兄ぃが!!!」 「こいびと~! もずく、にぃにのこいびと~!」 「……」 虚実入り混じった情報の漏えいに、思わず菜沙奈の顔を見る。そこには、なんとも形容しがたい、家族として本気で兄を心配している妹の表情があった。 結局、その日の昼食は焦げ臭さが鼻につくメニューとなったが、何故か妹たちには好評だった。 俺はその事実だけで、ご飯を4杯おかわりしたのだった。 人に「いつもどんな休日過ごしてる?」と聞かれて、こんな幸せな休日って答えると大抵、距離を取られるのだが、どうしてか理由は未だわからないままである。 幸せの形は人それぞれだ。いや、これは単に妹たちが良い子というだけの話だ。兄としての尊厳ゼロだな俺。
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