僕まで輝く

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 月が輝いている。  揺れる早朝の電車の中、少しのスペースを空けて隣に座る女の子のケータイのストラップの中。  透明なラメの中に埋め込まれたソレは、三日月。  他にもたくさんのストラップがついていて、その数は、僕には鬱陶しいと思える程の数。  それらは、金色の星だったり、木製の太陽だったり、蒼の地球だったりした。  星とか惑星とかの類のものばかりが4つ5つ、カチカチと共存していた。  僕の視線に気づいたのか、女の子はケータイの操作をやめて、こちらを向いた。  いきなりの笑顔に、僕の太陽が跳ねたんだ。  混んでいない電車の中で、二人の他人の距離は触れられるほどに近くなった。  「このストラップ、可愛いでしょう?私の一番のお気に入りで」    月を持って彼女は言った。満潮の笑顔で。  「雑貨屋さんで一目惚れしちゃって。このざらざらに」  星を持って彼女は言った。惚れ惚れする笑顔で。  「これは遠くに行った親友とおそろいで。かなり古いものだけど」  太陽を持って彼女は言った。昔を懐かしむ笑顔で。    「これ!この蒼、すごく深いと思いません?こうすると、奥まで見透かせそうで」  地球を持って彼女は言った。光に透かしながら横の笑顔で。  本当に楽しそうに、一つ一つの物語を他人の僕に笑顔で奏でる彼女を、可愛いと思った。  「「あの───」」  深い息を吸った後にぶつかる二つの笑顔。  月はただカチカチと笑った。 .
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