第1章

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「吾輩は幽霊である」 皆さんだったらどうだろう? 今、目の前に縄で縛られた二頭身眼鏡にそんな事を言われたら? 「桃、行くぞ」 「うん」 「きゃ~! 待って行かないで! せめて助けて!」 大きなスポーツバッグを手にさっさとその場から去ろうとする柚に向かって、それは喚いていた。 仕方なく、桃が縛られている縄を解こうと試みる。 「あ、余計絡まっちゃった」 「やめて~!」 紐の結び目を解こうと力任せに引っ張たのだが、余計紐が締まってそれの身体が雑巾みたいに細くなる。 「あ~も~めんどくせぇ」 徐に兄がスポーツバッグの中からハサミを取り出す。 それを見た眼鏡が青い顔をした。 「ひいっ切らないでね! 痛いから切らないでね!」 ーーバチン 問答無用で柳に繋がれた一本の縄をハサミで切ると、当然そいつは地面に顔面から落ちた。 「さ、行くぞ」 「いや、待ってよ! 縄も解いてよ~」 半泣き状態で懇願するそれに兄はイライラしていた。 「幽霊なら縄抜けくらい出来るだろ」 「引田天功 か!?」 それのツッコミに柚と桃は互いの顔を見合わせる。 「何それ?」 「誰それ?」 二人が同時に声を上げた。二人とも平成10年を過ぎてから生まれたので、昭和のお馴染み歌うマジシャンの事を知らない。 「ひぃ~! 最近の若者は!」 ゴロゴロとアスファルトの上でのたうち回る。 「呪ってやる~縄を解かないと呪ってやる~恨めしや~」 ブツブツ文句を言うそれを見て、桃は柚からハサミを取り上げると縄を切ってあげた。 「助かったぁ いやぁ、直射日光は当たるし、アスファルトから反射した熱が来るしで干物になるかと思っ」 それが一人で喋り始めたので、柚と私はさっさとお婆ちゃんの家に行く事にした。 「待って~! 幽霊の話はちゃんと最後まで聞いて~!」 と叫ぶそれの声が聞こえる。 私たちは顔を見合わせると、夏の生ぬるい風を受けながらお婆ちゃんの家まで走った。
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