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夏休み、仕事で忙しい両親の都合で、田舎のお婆ちゃんの家に預けられるのは毎年の事だった。
だから今年も慣れた坂道を登って、足早に日本家屋の玄関に入る。
ガラスの引戸を閉めると、二人はお互いに汗だくになった顔を見合わせて笑った。
「あ~暑い」
リュックを玄関に放り投げて桃は呟いた。
柚も顎先から滴り落ちる汗を拭いながらスポーツバッグを玄関に置く。
二人とも息を整えながら土間を上がって長い廊下を歩いた。
「おば~ちゃ~ん!」
桃が叫ぶと、台所の方から聞き慣れた声が聞こえる。
二人が台所に向かうと、もう真っ白になってしまった頭が振り向いて、シワシワのお婆ちゃんの顔が垣間見える。
「あら、いらっしゃい。柚くん、桃ちゃん。
今、お夕飯作ってるからね」
優しそうにそう言ういつものお婆ちゃんに安堵したのだが、何故か隣に立っていた柚は何も言わなかった。
「私、先にお風呂入りたい!」
「ああ、行っておいで」
お婆ちゃんの声で踵を返すと、柚が桃の腕を掴んだ。
「何?」
柚が、何も言わずに顎でお婆ちゃんをさす。
桃がもう一度お婆ちゃんを見たが、特に何もない。
だからてっきり、先にお風呂に入りたいんだと言いたいのかと思った。
「私が先にお風呂入るんだからね!」
桃がそう言ってお風呂場へ走って行ったが、柚は何も言わないし、追いかけても来なかった。
変だな?
とは思ったけど、もう汗でTシャツもパンツもビショビショでさっさとお風呂に入りたくて、そんなの後回しだった。
お婆ちゃん家のお風呂は広い。
アパート暮らしの桃にとってはこれが夏休みの楽しみでもある。
アヒルさんをいっぱい湯船に浮かべて泳ぐのが桃の楽しみだった。
何時もの様に服を脱いでお風呂場のドアを開けると、白い煙が充満している。
さっと身体を洗ってシャワーを浴びて、いざ、湯船にダイブしようと思ったら、湯気の中に何かが有る事に気付いた。
あれ? 先に誰か入ってたの?
と、思いつつも、お婆ちゃんは一人暮らしだから、私と柚とお婆ちゃんしか居ないはず。
恐る恐る窓を開けると、白い湯気が出て行って、湯船に浸かったそれが目に入った。
「あ~ええ湯や。生き返る~
もう、死んでるけど」
さっき、ミノムシみたいになっていた二頭身眼鏡の頭がプカプカと浮かんでいた。
まん丸の白い眼鏡がふと桃のぺったんこな胸板を見てクスリと笑う。
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