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自分の無い胸を笑われて一気に頭に血が上った。
「何よ! あんただって無いくせに!」
桃が怒りながらそれの頭を捕まえて湯船に押し付けると、バタバタと暴れる。
数分そうしていたが、桃の方が体力不足になって諦めた。
「や~ね。最近の若者は。
そんなとこでいじけてないで湯船に入りなさいよ」
そいつに言われ、風呂場の隅っこで落ち込んでいたが、とぼとぼと湯船に浸かる。
「何しに来たの?」
「お風呂に入りに」
「他所行ってよ」
「まあ、いいじゃん。
多目にみようよ」
埒があかなかった。
仕方ない。さっさとこっちに止まっている理由を聞いて成仏してもらおう。
「何が望み?」
桃が聞くと、それはニヤリと不気味に笑った。
ヤバイ。これは寺にでも連れて行って無理やり成仏してもらう他無いかもしれない。
「有名になりたい!」
ふと、一瞬なにを言ったのかわからなかった。
「は?」
「有名になってみんなからチヤホヤされたい!」
何だこいつ?
「まあ、せめて貞子くらいの認知度集めれたらイイかなぁ」
目をキラキラさせて言うその顔に嘘はなさそうだ。
「え? 貞子が最低って結構ハードル高くない?」
「最高は船橋市の非公認キャラクターの梨の妖精くらいになったら嬉しいかな!」
「そこはふなっしーでイイと思うよ」
何故、そんな回りくどい言い方をしたのかは解らないが、まあいいとしよう。
「それでその…」
ふと、桃はこれの名前をまだ知らない事に気付いた。
「名前は?」
「まだない」
「……」
そうか、自分が誰なのかも忘れたのか。
と不憫そうな顔で見つめると、そいつは慌てた様子で声を上げた。
「ちっちがうぞ!?
夏目漱石の吾輩は猫であるの一説を用いたギャグで…」
「何それ、知らない~
もう、ミノムシみたいだったからミノでいいよ」
「なんと!
ちゃんとかっこいい芸名考えてたのに!」
めんどくさ!
「いいじゃん、みのもんたのミノで」
そう言ったら、結構気に入ったらしい。
「キャベツが体にいいとテレビで発言すれば、翌日八百屋からキャベツが消えると言われる程、有名で影響力のあるあの、みのもんた」
「ん~キャベツは知らないけど、まあ大筋合ってるんじゃないかな」
そしてこいつは
命名・ミノ
になった。
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