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彼女は狐面を外し、膝の上に置いた。
その顔はさっきまでの狂気じみた顔では無く、物悲しく憂いをおびた咲良さんに戻っている。
咲良さんの顔を見て、どこかほっとしている僕がいた。
「正直にお話します。先程申した通り、私は咲良ではありません」
「では、貴方は誰なんですか?」
潤んだ目でこちらを見る。
咲良さんでは無いと知っていても、心の奥ではどこか彼女に対して恋心を抱いていた。
「私は、紅葉。咲良の双子の妹でございます」
それを聞いた僕は、咲良さんと似ている事に納得していた。
双子は似るというが、ここまで似るんだなと驚きもした。
「雪のあの日、貴方が出会ったのは間違い無く姉の咲良です。だけどあの時、咲良は足抜けの最中でした」
「足、抜け……?」
「遊女の世界で言う、脱走です」
僕と出会った日、咲良さんは足抜けをしていた。
太夫が足抜けをするって、よっぽどの事があったに違いない。
だけどあえて僕は聞かない。
僕の中での咲良さんは、好きでいた頃の彼女でいてほしい。
汚したくない。
「私が姉の足抜けを手伝っているとき、貴方の事を聞きました。雪の中で出会った、可哀想な青年がいたと」
それは、やっぱり僕の事なんだろうな。
初恋相手に可哀想な青年って言われると、少しショックだ。
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