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僕はこの吉原遊郭で、路頭に迷っていた。
この時代のお金を持ってるはずもなく、泊まる事も食べることもできない。
眠い目を擦りながら僕は、未知の場所で初めての朝を迎えた。
もう僕の頭の中では、帰りたいという考えが消えてとりあえずご飯を食べたいという考えしかなかった。
朝は夜と違って活気が無く、少し靄がかかったような静かな空気に包まれている。
寒い……。
僕のいた世界は真夏だったはずなのに、こっちは吐いた息が白くなる程冷えていた。
どうしたらいいんだろう。
僕は道端に座り込む。
もう嫌だ、帰りたい。
そんな考えを一瞬で消し飛ばす者が、目の前に現れた。
白い肌に赤い紅の唇が映え、それに負けない程の赤い着物が美しい。
灰色の空から降りだした雪が彼女の頬に触れただけで、僕はゴクリと生唾を呑んだ。
「寒くないです?」
彼女は僕に向かって話しかけてきた。
だけど僕は、その声が上手く聞こえない。
安直だけど僕は、その女性に一惚れしてしまったから。
その女性は反応しない僕を見て少し微笑み、そのままどこかへ行ってしまった。
僕は気付いた。
しまった、ここの事話を聞けばよかった……。
後悔したのと同時に僕は、またあの女性に出会えないかなと少しばかり期待を膨らませた。
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