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その日のお昼に、吉原遊郭でとある人物に出会った。
遊郭から少し外れたとある宿屋で働く、由紀という女性だった。
道端で倒れてた僕を見つけて、同じ宿屋で働く男性と一緒に運んでくれたという。
事情を話すと、その宿屋の女将は僕に一部屋貸してくれた。
話した事情は、少しばかりだけど嘘が混じっている。
だって未来から来ただなんて、誰が信じるんだろうか。
「工藤さん、ご飯のご用意出来ましたよ」
襖の向こうから現れたのは、僕を助けてくれた由紀さんだった。
白飯に焼き魚、お漬物を部屋の机に置いてくれる。
1日ぶりの飯に、僕のお腹は我慢の限界だった。
「いただきます!!」
僕はその美味しそうな料理に、思い切りかぶりつく。
味わって食べることも無くその料理たちは、2分で僕の胃の中に丸々収まった。
それを見ていた由紀さんは、部屋の入り口で小さく笑っている。
「あ、すみません。折角の美味しい料理、あまり味わって食べてなかった……」
「いえ、いいんですよ。この宿屋はお侍さんが多いので」
だけど満腹になれた。
食べるという事がこんなにも幸せなんだなと改めて実感した所で、由紀さんに少し話を聞いてみる事にした。
「あの、由紀さん」
「どうされました?」
「ここって、吉原なんですよね。1630年の……」
「そうですけど、もしかして行き倒れて記憶でも失わはったんですか?」
「いえ!!ちょっと確認しておこうと思って」
僕が笑いながらそう言うと、由紀さんはちょっと苦笑いを浮かべた。
まずい、不審がられる前に他の事聞かないと……!!
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