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「吉原遊郭で朝、凄い美人に出会ったんです!!由紀さん知りませんか?」
「美人さんと?」
何とか話は逸らせた。
由紀さんはその事で、少し考え始めた様だ。
意識を失う前に出会った、あの女性。
はっきりと鮮明に覚えている、あの整った顔。
赤い紅が塗られた唇から漏れる声に、心がゾクゾク震え上がる。
「赤い着物に、白い肌で……」
「あっ!!もしかしてあの人かしら」
由紀さんは何か思い出したのか、僕に手をこまねいて外へと連れ出した。
宿屋の入り口で由紀さんは、眩しい日差しが昇る方角を指さしている。
僕がその方角を見ると、吉原遊郭の一番最深部にある大きな建物があった。
「あそこ、遊郭で一番繁盛しとる『雅』ってお店なんです。その遊女屋は、吉原遊郭最高位の太夫の位を持つ『咲良』という方がいらしてます」
咲良……。
それが昨日出会った彼女なのかもしれない。
確信は出来ないけど、それでも彼女はそれ程綺麗で素敵だった。
「何とか、会えませんかね?」
「難しいと思いますよ……。なんせ太夫はこの街一番の人気者なんですから、会える確率も低いしかなりのお金持ってかれますよ」
そうだ、お金。
今でいうキャバクラの様なものなんだから、かなりのお金がかかるだろう。
少しだけどこの宿屋で働かせてもらって、僅かながら所持金は手に入れた。
だけど僕の右手に握りしめたのは、たった500銭。
この遊郭で1番の彼女に会うには、やはり壁が大きいのだろうか。
「あと、工藤さんには申し訳ない事言いますけど……咲良さんはやめた方がいいと思うんです」
「やめた方がいい?どういうことですか?」
言葉を選ぼうとしているのか、由紀さんは少し目が泳いでいる。
少し唇を噛みながら、僕の顔を見てこう告げたんだ。
「彼女は男の心を奪う遊郭の魔女です」
彼女の素性は、誰も知らないのだという。
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