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その日の夜、また街は活気づいていた。
宿屋の女将に許可を得て、僕はまた昨日と同じ場所に来ている。
今度は今まで着ていたスーツ姿では無く、女将から借りた着物を着て。
僕は未だに500銭を握りしめている。
それでも僕は、彼女に会いたかった。
生きてきた23年間、一目惚れなんてしたことが無い。
ましてや元の世界でも、1度も恋愛なんてしたこと無い。
そんな僕が頭の中でずっと、彼女の顔が浮かんでくる。
胸が締め付けられるように苦しくて、吐きだせない気持ちに涙が出そうで。
僕は足早に、ある場所に向かった。
吉原遊郭最深部。
紫の屋根に、町一番の高さを誇る建物。
他の場所とは違って凄く煌びやかで、最初に来た時には何故気付かなかったのかわからない程。
遊女屋「雅」は、そこにあった。
「入ってみよう……」
そう声に出して、少し気持ちを落ち着かせた。
こんな場所に来たのは初めてだから、舞い上がってしまってたんだろう。
意を決して僕は、雅へと足を踏み入れた。
「いらっしゃい。お客さん、初めてよね?」
咲良さんよりはかなり大人の女性の、妖艶で神秘的な雰囲気の女性が現れた。
この遊女屋の主人だろうか?
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