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咲良さんは、とても良い人だった。
500銭を子供の様に握りしめていた僕を見て、部屋に招き入れてくれた。
「お代はいらへんよ」
そう優しく微笑みかけてくれて。
「いいんですか?僕なんかがこんな所にきて」
「そんなに怯えんと、楽にしてええんよ」
案内された部屋は、赤い敷物に小さな提灯がかけられた立派な部屋。
まるでお屋敷に招かれたかのような、そんな錯覚に陥るほど。
「お酒は飲まれる?」
「い、いえ。お酒は苦手で……」
「あら、それはそれは可愛いこと」
そう言って彼女は、僕の隣に座る。
正直綺麗すぎて、目のやり場に困った。
甘い匂いに、着物の胸元がはだけて僕はゴクリと唾を呑んだ。
「お名前をお伺いしても?」
「は、はい!工藤といいます!!」
「私が聞いてるのは名前よ。下の名前」
「な、名前……?健太、です」
咲良さんの唇が動くたびに、僕は目を奪われた。
そのせいで、質問にたどたどしくでしか答えられない。
緊張してると捉えられたのか、耳元で小さく囁いた。
「緊張しなくていいのよ」
その声に緊張するんですけど。
僕も微笑んで、ありがとうございますと伝える。
いろいろ聞きたいことがあったが、僕にはまず聞きたいことがあった。
「何で、僕の事を覚えてるんですか?」
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