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その絵を見た途端、思い出という記憶の中に存在する母の面影が、懐かしさと共に溢れ出てきた。
蝋燭の火は、小さいくせに夕日色に燃え盛っている。
照らされた滑らかな肌は、汗ばんでいるせいで光沢を増していた。
荒い呼吸を抑えつけるように拘束された体。
よく鞣された麻縄が、柔らかい女の肌に食い込む。
客が滴らす蝋を乳房で受け止めると、たちまち蝋は冷えて固まる。
熱い滴が落ちる度、白い肌には刺すような痛みと共に真っ赤な花が咲き乱れた。
女は客を喜ばせるため、芝居がかった台詞で喘いでみせる。
客のすることに痛がりながらも善がり、ときには羞恥に顔を染めながら唇を噛む。
肉体も精神も痛みや苦しみを伴うこの仕事に、女はすっかり慣れてしまっていた。
蓮見若葉は母子家庭で育った。
両親は若葉が3歳の時に離婚し、それから父親とは一度も会っていない。
出張が多く、あまり家に居ない父だった。
そのせいか、離婚した父親に会えず寂しいという思いは特にしたことはなかった。
父と別れた後、狭く汚いアパートに引っ越し、生活も質素になったが、大好きな母さえ傍にいてくれていれば、それだけでよかった。
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