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「ほら、君のぶんだ」
と、渡されたカップを受け取り、再び席に着く。深いルビーに映る自分の目を見返した。
「埃のようなものが浮かんでいるのは、新鮮な茶葉だという証拠だよ。いわば産毛だね。若い葉は沢山産毛が生えているけど、鮮度が落ちると産毛も取れる」
何を思ったのか、ありがたい解説が飛んできた。この紅茶狂いは相変わらずである。
一口飲んで、紅茶の種類が分かってしまうようになった私も大概だが。
「杉戸さんは本当に紅茶が好きですよね」
私は取っ手をぎゅっと強く握りしめた。
「そうだね。"これが無ければ生きていけない” と、いうやつだ。勿論、1人で飲むよりは、2人で飲んだ方が美味しい…」
「好きにも色々な種類がありますよね。教授、好きだけじゃなくて、愛の形もーーお金の使い方もそうですし、生き方もそうです」
杉戸さんは、カップを片手に沈黙していた。私はじっと、その目を見つめた。
「目に見えなくても…きちんと伝えられればいい、形にしてあげればいい。私はもう答えが出ています…今、今伝えたいんです。
ーー好きです」
泣きそうになって、最後の方は声を絞り出した。震えていたかもしれない。
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